9月7日の予報でお知らせしましたように、第3回カパルシンポジウムを、以下のタイトルにて3人の報告者と1人のコメンテーターをお招きして執り行います。報告者もコメンテーターも、インドネシアの「現場」でそれぞれの夢を実現するべく、理想と現実のあいだで試行錯誤を繰り返しながら前進しようとされている方々です。通常の学術研究大会ではなかなか目にすることのない企画です。多くのカパルメンバーの参加をお待ちしています。シンポジウムは12月18日(土)の午後の後半に開催されます。なお、11月半ばにカパルウェブサイトにアップされる要旨集には、下記の方々の活動が分かるデジタル資料のURLを添付していただく予定にしています。

シンポジウム・タイトル
「~理想と現実のあいだで~ <ヌサンタラ>多島海の地に夢を追う」

農村貢献型実習をめぐる「理想と現実」
――日・イ6大学連携プログラムで気づいたこと考えたこと――

島上宗子(愛媛大学/一般社団法人あいあいネット)

 報告者は、2013年から、愛媛・香川・高知大学とインドネシアの3大学(Universitas Gadjah Mada、Intsitute Pertanian Bogor, Universitas Hasanuddin)の計6大学連携による農村貢献型実習プログラム(SUIJIサービスラーニング・プログラム、以下SUIJI-SLP)の実施に携わってきた。SUIJI-SLPの柱は、日本とインドネシアの6大学の学生が四国の農山漁村で夏に3週間、インドネシアの農山漁村で春に3週間、地域の課題解決を目指す活動に取り組みながら、共に時間を過ごし共に学ぶ農村実習である。インドネシアで長い歴史を持つ農村長期実習(Kuliah Kerja Nyata, KKN)等の実績に依拠しつつ、一部カリキュラムを連動させて実施している。本報告では、プログラムの実施経験から見えてきた「理想と現実」とその動態についてお話ししたい。具体的には、6大学間の同床異夢的な「理想」、参加学生の戸惑い・悩み・変化、教員の立ち位置と役割、などである。時間が許せば、コロナ禍により実施したオンラインの取組から見えてきた課題と可能性、現在検討中のウィズ・コロナ時代の農村貢献型実習のあり方についても触れたい。

Dari Kの10年――これまでと、そしてこれから――

吉野慶一(Dari K株式会社)

 世界中で多くの人に愛されているチョコレート。しかし、そのサプライチェーンの上流には、原料カカオ生産者の窮状や児童労働、気候変動など様々な課題があります。2011年に設立されたDari Kは、そのようなチョコレート業界に潜む課題を解決することを目的としたミッション・ドリブンの会社、社会的使命を重視する会社です。

 本発表では、報告者が金融アナリストからチョコレートのベンチャーを立ち上げるに至った経緯から、過去10年間の活動の軌跡――活動のひとつは南スラウェシのカカオ栽培農家との協働です――、そして今まさに挑戦していることについてお話しいたします。具体的なトピックとしては、

  • なぜインドネシアのカカオに着目したのか?
  • インドネシアのカカオ生産者が抱える問題とは何か?
  • 一般的なフェアトレードとDari Kのアプローチの違いは何か?
  • Dari Kが考える気候変動への適応策
  • 生産者の意識を変えた想定外の出来事

などです。10年間の経営を通して直面した葛藤や挑戦についても率直にお話ししたいと思います。

熱帯泥炭地の保全と植林事業の調和は可能なのか
――理想の模索と理想の実現に向けた12年間の挑戦の軌跡――

加藤 剛(PT. Wana Subur Lestari╱PT. Mayangkara Tanaman Industri)

 熱帯泥炭地で植林事業を行うか否か――十数年前、報告者が勤務する住友林業社内で大論争となった。西カリマンタンにある乱伐後の広大な泥炭地の開発権を取得するかどうかを議論していたときである。熱帯泥炭地は大量の水とカーボンを溜めこんでいる。従来の泥炭地での植林開発は、まず乱伐によりまばらに残った森林を伐採して原木を運び出す。裸となった泥炭地の水抜きをし、地下水が沈下して地表部分が落ち着くのを待つ。それから植林木の植え付けである。問題は、無計画な開発過程で生物多様性が失われ、土壌中に蓄えられたたくさんのカーボンが空気中に放出されているだけでなく、新たに生まれた土地は、十分に分解し土になる前の腐った樹木の亡骸、それも乾燥した亡骸から構成されている。そのため、大火災が発生しやすい。熱帯泥炭地の開発が批判される所以であり、十数年前、社内で大論争となり、報告者を含めて植林事業に反対する意見が大勢を占めた理由でもあった。失敗するリスク、NGOなどの批判にさらされるリスクが大きすぎるからである。2010年以来、報告者は、住友林業と現地企業との2つの合弁会社の経営責任者として、西カリマンタンの熱帯泥炭地で植林事業を展開している。幸いにして、国際環境NGOの理解と支持も得られた。報告では、一体なにが起こったのか、なにを起こしたのかについてお話ししたい。

コメント

藤井宏和(PT. トアルコ ジャヤ)

 1976年に設立されたPT. トアルコ ジャヤ は、南スラウェシのトラジャでコーヒー農園を経営しています。高品質なコーヒーの生産方法を自社農園で体現することで、良質なコーヒーの生産を地域農民のあいだに広げ、さらには自社農園の運営に必要な雇用を通して、地域経済の発展に寄与するべく努めてきました。しかし近年、気候変動や都市部への働き手の流出などの変化により、コーヒーの持続的な生産に課題が生じているのも事実です。わたし自身は、生産担当取締役として2018年3月よりトラジャに駐在しています。シンポジウムでは、弊社の45年に及ぶトラジャでの経験、そしてわたし自身の現場での体験を踏まえて、報告者の方たちのお話にコメントをしたいと思います。