カパル第3回研究大会シンポジウム関連企画1】

島上宗子(愛媛大学/一般社団法人あいあいネット)

*(前編)はこちらからご覧ください。

インドネシアでの出会いと体験:海外サービスラーニング

 海外サービスラーニングの活動の流れは国内サービスラーニングとほぼ共通している。日本学生にとって大きく異なるのは、インドネシアという異文化に身を置くということだ。学生たちは、日本車の多さと交通渋滞に驚き、急激に経済成長するインドネシアを実感する。実習サイトにつけば、村人と子供たちに囲まれ、濃密な人間関係、自然が身近にある暮らしぶりを体感する一方で、村々に押し寄せている様々な社会変化とグローバルなつながりを目の当たりにする。学生たちが共通して驚くのは、村のゴミ問題である。プラスチック包装やカン、ペットボトルなど自然分解しない包装・容器を使った商品が村に浸透する一方で、分別や処理のシステムはないに等しい。ゴミ問題の解決は、学生たちの主要な活動目標の一つとなっている。

村の子供たちとゴミ拾い活動(インドネシア)

 村での宿泊は、いくつかの家々にわかれてのホームステイだ。インドネシア学生の手助けを借りながら、片言のインドネシア語と身振り手振りでコミュニケーションをはかる。当初欲しいと思っていた「冷たい飲み物、クーラーのきいた部屋、トイレットペーパー」が「なくても何も困らない」ことに気づく一方で、鶏を絞めて「命をいただく」経験などから、人間が生きていくために不可欠なことは何かを考えはじめることとなる。

 「好奇心」「挑戦する気持ち」「根本が存在する豊かさ」「違いを楽しむ」「人のつくる風景」「協同」。帰国時に、海外サービスラーニングを通して得たことを学生が一言で書き表した用紙には、インドネシアの農山漁村という場が、学生に与えた経験の豊かさが表れている。

地域調査を終えて、自分たちの発見を議論し、活動を組み立てていく(インドネシア)

学生たちの自主的活動の展開

 以上のようなSUIJI-SLPを通じた出会いと経験は、学生たちによる様々な自主的活動を生み出している。愛媛の明浜では、みかん収穫の手伝いを「ボラバイト」と名付け、広く他の学生にも呼びかけて進める活動が動き出した。蒋渕では、地域の子供たちを対象にした海の環境教育番組の制作に学生たちが関わったり、海産物を大学の食堂でプロモーションするなどの取り組みが生まれた。香川の小豆島では、学生たちが「棚田発 ! 日本こころのプロジェクト」を組織し、棚田保全にあたる活動が進んでいる。地域の祭りやイベントに学生が手伝いに行くといった活動は各サイトで展開している。インドネシアでも、地域の女性たちがゴミとなったプラスチック包装を折って編み込んで作った財布やキーホルダーを、インドネシア学生たちが「オリゴミ」と名付けて販売支援する活動が始まった [1] … Continue reading 。また、インドネシアの学生の間からは、単なる観光旅行ではなく、SUIJI-SLPのような農山漁村での学びの旅を日本とインドネシアで企画する会社を立ち上げる夢もあがっている。

プラスチック包装紙を活用した「オリゴミ」の制作(インドネシア)

 SUIJI-SLPに特徴的なのは、こうした各地のローカルな活動状況が、LINEやFacebookなどのソーシャルメディアを通じて、日本・インドネシアの学生間で、瞬時にグローバルに発信・共有されていくことだ。写真や投稿をみた学生たちが、英語や、時に日本語、インドネシア語を織り交ぜてコメントが入ることは、活動への後押し、刺激となる。

 サービスラーニングをきっかけに、インドネシアへの長期留学に踏み出した日本学生もいる。受講動機レポートに、「インドネシアに行くということは考えたことさえなかった」と書いていた Aさんは、アドバンスドまで進んだのち、文部科学省の「トビタテ!留学JAPAN」の奨学金を受け、3年次にインドネシアに1年間の留学を決めた。インドネシアの山村でエコツーリズムを企画実践しながら学んでいる。彼女にとって、インドネシアの村も愛媛の村も同様に大切な「第二の故郷」であり、将来は愛媛を拠点に農山漁村のよさを伝えるツーリズムを創ることが目標だという。

 こうしたSUIJI-SLPの学生たちの姿から見えてくるのは、ローカルにこだわる、ローカルに根があるからこそ、グローバルにつながり、行動することが楽しくなる、そういった“グローカル”なつながりである。

異文化交流を通じた地域未来づくり:グローバルとローカルをつなぐ

 SUIJI-SLPの過去3年間の取り組みを経て、筆者らは、地域の未来を創るには、異文化交流が不可欠だと確信している。大学教員という立場でいえば、それは、地域の人々と共に地域から地域・日本・世界の未来を創る若者を育てるということだ。学生を受け入れた実習サイトの方々も、未来を創る若者を育てているという感覚を持たれたのではなかろうか。学生が地域で実施した活動自体だけではなく、そうした感覚も、前編の最後で言及した受け入れに対する高評価につながる要因となったのかもしれない。

 SUIJI-SLPの取り組みから見えてきたことは、グローバルとローカルは対立するものではなく、ローカルに根ざすからこそ、グローバルにつながることができる、ということである。ここでいう、ローカルに根ざすとは、実際にその地域に暮らすという意味だけではなく、地域と関わりを持ち、何か選択したり、決断したり、行動するとき――買い物をするといった小さなことから、人生の選択にいたるまで――に、地域のことが頭にある、地域を足場として物事を考えている、といった生き方も含めておきたい。SUIJI-SLPの参加学生の中には、出会った地域と関わり続けていくためには、将来どういう選択をしたらよいか、迷い、相談にくる学生もいる。

 地域にどういう足場が作れるのか、どう地域と自分は関わるのかが見えてくるためには、自分自身を見つめなおすこと、そしてそのためには、異文化交流、つまり、自分を映し出してくれる「他者」「異文化」の存在が不可欠である。インドネシアに物理的に行くだけでは、自分は見えてこない。自分とは異なる考え方や文化に触れ、想像もしていなかった状況や事柄を知り、自分の「当たり前」が揺らぐような経験をしたとき、人は自分自身を掘り下げ、見つめなおすことができる。

 これは、地域の側にもあてはまるのではないか。地域に余所者が訪れる・加わることで、地域の「当たり前」が少し揺らぐ。揺らぐことで、無意識であった「当たり前」を意識すると同時に、今まで気づかなかったことに気づき、将来に向けてどうするかを考えるきっかけとなる。その意味で、異文化交流は、地域の人々がローカルに根をはりながらも、グローバルに多様な人々とつながる、開かれた地域づくりにつながるはずである。ローカルに根ざしながら、グローバルに開かれた地域の未来づくりに関わる若者を、地域の方々とともにこれからも育てていくことが、SUIJI-SLPの目標である。そのためには、文部科学省の補助が終了した後もプログラムを継続させる基盤をつくること、そして、これまでの学生の学びや変化、地域に与えた影響を、より具体的、包括的、継続的に捉えて検証し、プログラムの改善につなげていくことが次のステップに向かうための課題だと考えている。

2013年度の海外サービスラーニング参加者が一堂に会したSUIJI-SLPセミナー (2014年3月14日、ボゴール農業大学)

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 上記の記事の発行後、2017年度末をもって文部科学省の補助事業は終了しましたが、SUIJI-SLPは、関係する各大学が予算確保に努める形で継続しています。補助事業終了後の「理想と現実」については、第3回研究大会のシンポジウムにて報告します。

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脚注[+]