第3回カパル研究大会(2021年12月18日、19日)は、昨年度に続いて2回目の全面オンライン開催となった。参加登録やカンパの手続きを前回と変えざるを得なかったため、一部に若干の混乱もあったようだが、前大会の経験を踏まえたうえでの入念な準備のかいもあり、全体としてきわめてスムーズに進行した。環境の急激な変化に対して、社会全体も私たち個々人もいつのまにかずいぶん慣れていたのかもしれない。前大会時点ではまだまだ手探りで行われた準備と当日の作業のほとんどは、多くの参加者にとってそれほど非日常的なものではなくなっていたのではないか。技術面での障壁や戸惑いがかなり小さくなった今大会では、発表者を含む参加者それぞれが、議論の内容そのものを充実させることにより注力できただろう。

 参加登録者は161名、購入されたカンパチケットは177枚だったという。2会場を設定し、2日間の会期中に自由発表8本、弾丸プレゼン5本、パネル2本、さらにシンポジウム「理想と現実のあいだで-<ヌサンタラ>多島海の地に夢を追う」が展開した。インドネシア人研究者による発表も多くあり、インドネシアからの出席者や、研究者に限らずインドネシアと様々なつながりを持ちながらそれぞれの現場で働く人々が参加し、どの発表に対しても多くの質問・コメントが寄せられて活発な議論が行われた。

 ほとんどの人と同じように、私自身ももう2年以上インドネシアに行けないでいる。調査地の人々との交流はSNSを通じてできないことはないが、やりとりをする相手も話す内容もどうしてもかなり限られたものになってしまう。いつのまにか時間が過ぎていき、これからの研究に焦りを感じるようになっていた中で、将来を見据えて何をしたらよいのか、いま何ができるのかを、今大会を通して改めて考えさせられた。

 たとえば1日目に行われた東佳史(立命館大学)による自由発表「パンデミック下のジャカルタのエッセンシャル・ワーカー達-Grab運転手とベチャ曳との比較から」では、インドネシアでの現地調査が行えない現状において、リモート調査がどのようにして可能になるのかを具体的に示していた。発表は、現地の協力者とともに文章を注意深く検討して作成した質問票を用いて、約500名のGrab運転手たちからGoogleフォームを通じて回答を収集し、分析したものだった。将来現地に赴いて行う質的調査を見据えて、現状で可能な調査を着実に実施し、研究を中断せずに継続していく試みであった。また、フィールドワークに行けないために積み残してしまった研究予算をどのようにしたら有意義に使えるのか考えるうえでも示唆に富んでいた。

 カパルの理念である「広い意味でのインドネシアとインドネシア研究に関心を持つ者の緩い同好会的な集まり」をまさに体現した発表も多くあった。2日目にあった中谷文美(岡山大学)らによる自由発表「西ティモールにおける植物利用の多様性-ヤシ科植物の道具利用を中心に」は、西ティモールを舞台にした人類学、考古学、植物学による共同研究であり、対象地域を限定して行われた地道な調査の報告であるが、これからの時間的・空間的な大きな展開を見据えていて刺激的だった。またシンポジウム「理想と現実のあいだで-<ヌサンタラ>多島海の地に夢を追う」では、島上宗子(愛媛大学/一般社団法人あいあいネット)、吉野慶一(Dari K株式会社)、加藤剛(PT. Wana Subur Lestari╱PT. Mayangkara Tanaman Industri)、藤井宏和(PT. トアルコ ジャヤ)が、立場も目的もそれぞれ異なるインドネシアとの関係と、長きにわたる実践の経験と専門知識に基づいて議論を展開した。議論が交差するなかで、不確実性が増している状況だからこそ、課題に対してテクノロジーを適切に選択して活用し、新しく考えと実践を展開することが重要であり可能なのだということが示された。

 対面開催には場のあちこちに様々な「間(ま)」や「距離感」が生じるよさがある。それは大切にしていかなければならないし、次回大会が対面で開催されることを願うばかりである。それと同時に、前回に続いての今回の全面オンライン開催の経験は、貴重な財産として今後につないでいくべきものだと感じた。

 今大会を節目として、加藤剛と倉沢愛子の両共同代表は、その役目を辞することになっている。カパルの設立とここまでの歩みのために尽力されてきたおふたりに心から感謝を申し上げたい。2日目に行われた運営委員会報告において、加藤共同代表はカパル設立の理念を確認したうえで、これからのカパルが「Pay Forwardの精神にあふれた集まり」であってほしいと述べた。「Pay Forward」は「厚意・好意による行為」「平たくいえば、自分がしてもらって嬉しかったこと、よかったと思うことを、誰にどのように返したらよいのかを考え、返していくこと」を意味している。教えを受けた弟子が師に恩を返す「Pay Back」(返報、恩返し)はもちろん美しいものだが、どうしても1対1の関係の中に閉じてしまう。これに対して「Pay Forward」とは、「厚意・好意による行為」を、1対複数の関係において、世代を越えて増幅・拡散していくことだという。

「ゆるやかな集まり」として出発したカパルで「Pay Forward」の精神が大切にされることにより、立場や世代や国籍などのいくつもの境界を越えた豊かで多様な関係がはぐくまれていくだろう。それが時には思わぬかたちで大きく展開していき、カパルは学会とはまた異なる新しい魅力と刺激に満ちたものにいっそうなっていくだろう。

森田良成(桃山学院大学・国際教養学部)