ここでは発表者の立場から、第4回カパル研究大会(2022年12月3日、4日)について振り返ってみたい。

 これまでカパルでは、第2回研究大会が不幸にも2度延期され、その後も新型コロナウイルス感染拡大の影響を受けてオンライン開催が続いていた。そのことを踏まえれば、参加者が対面で集うカパルの研究大会としては、今回が第一回研究大会から数えて2度目であった。私はいずれの大会も参加してきたが、改めてインドネシア研究者/関係者が会場に集まり議論に熱中する場に身を置くことで、専門も世代も違う「仲間」や「先輩」とインドネシアについて一緒に考えることができる喜びを感じることになった。

 今大会では、私は自由研究セッションDにて個人発表者という立場で発表させていただいた。だが、正直に白状すれば、今回の研究大会で発表するかどうかという点については、締め切り直前まで大いに悩んでいた。

 悩んでいた第一の理由は、大会運営との関連である。今回は東洋大学が開催校となったことで、私自身も開催校に所属する者として大会の直前や当日は会場設営などに奔走することが予想された。果たして発表の準備まで手がまわるのかという不安だ。

 悩んでいた第二の理由は、今回の発表内容が新しい研究テーマだということである。今回の私の発表タイトルは「現代インドネシアにおける男性の育児をめぐる言説-「母乳の父親」の男性性-」で、主に考察の対象としたのも都市中間層の人びとであった。一方で、これまで私が扱ってきたテーマは村落部に住むミナンカバウの人びとの親族関係とイスラームの実践であり、(自分のなかではつながっているものの)今回の発表内容とは対象地域もテーマもまるで違う。

 都市中間層の男性の育児は今年に入って本格的に取り組み始めたテーマである。ある程度のインタビューも行っていたものの、手元にあるデータも決して多くはない。もちろん、開始したばかりのテーマで発表を行い、フィードバックをもらうことは研究の遂行上においてとても大切な過程であることはわかっていた。それでも、インドネシア研究の精鋭たちが集まるカパル研究大会において、調査が十分とは言えない準備状況のなかで果たして発表してしまってよいのか不安に感じていた。

 しかし、そんな私の不安は杞憂にすぎなかった。当日の発表を終えてみると、質疑応答の時間やプログラムの合間の休憩時間に、さらなる研究の進展に向けた数多くのアドバイスをいただいた。休憩時間にお話させていただいたなかには、これまで話す機会の少なかった専門分野の方もいた。夜景を眺めながらの懇親会では、それぞれの研究内容についてざっくばらんに話をすることができた。

 このように多くのフィードバックを得ることができたのは、対面で集まることができたということが大いに関連しているだろう。これまでのオンライン開催でもくだけた雰囲気での意見交換ができるような様々な工夫がなされていた。それでもやはり、今回のように対面で向かい合って話をすることには大きな意義があるということを再認識することができた。

 それに加えて強調しておきたいのは、新たな研究テーマを歓迎するカパルの雰囲気である。新旧代表が述べている通り、カパルは学会ではない。HPの「カパルのビジョン」には、カパルが目指すのは「インドネシアと関わりを持つ人のための開かれた研究・交流・情報プラットフォームの創出」だと書かれている。そのような理念を持った様々な参加者が集うからこそ、今回の私のように駆け出しの研究課題を扱っていても受け入れてもらえたのであろう。特に、大学院に入学し本格的に取り組み始めたテーマを抱えた院生や、私のように博士論文を終えて次のテーマを模索する段階の研究者にとって、このような場はとてもありがたい。その点において、ライトニングトークも、フィールドから直接オンラインで発表されている方々の発表も非常にリアリティがあった。対面が主流になっていっても、現地からオンラインで参加するというオプションは今後も残っていってほしいと思う。

 もちろん、豊富な調査データにもとづいた厳密な議論が大切なことは言うまでもない。しかし、そこに至るまでにはアイディアが新鮮なうちに様々な意見をもらうプロセスが必要になってくる。インドネシアとかかわりを持つ人たちの結節点であり、「学会ではない」カパルの意義を改めて感じる研究大会であった。

 一方で少し残念であったのは、鏡味代表も述べていたように、同世代や大学院生の発表者の割合が低かったことである。その背景には、新型コロナウイルスの感染拡大によって、現地での調査が行えていないことがある。この点は、いくら強調してもしすぎることはないだろう。手持ちのデータが心もとない段階での研究発表は、確かに怖い。しかし、カパルでは、少しでも「新しい」と思えるアイディアや、自分が見つけた「面白い」現象について積極的に発信していけば、必ず誰かが受け止めてくれる。これが、今回私が新たなテーマでチャレンジして得ることができた実感だ。

 最後に、開催校として運営側にもまわった感想を少しだけ述べておきたい。今回、運営委員の皆様がどれほど熱意をもって大会を実施しているのか、改めて間近で見ることができた。重ねて、御礼申し上げたい。