カパル第3回研究大会シンポジウム関連企画1】

島上宗子(愛媛大学/一般社団法人あいあいネット)

 愛媛大学では、日本とインドネシアの6大学の連携の下、サービスラーニング・プログラムを実施しています。サービスラーニングとは、社会貢献活動(サービス)と学習活動(ラーニング)を統合させた学習方法です。教室で得た知識を活かして貢献活動を行うとともに、貢献活動の実践を通して学ぶことを目的としています。1980年代からアメリカ各地の大学で積極的に導入され、日本では2000年代以降、キリスト教系大学をはじめ各地の大学に広がってきました。愛媛大学の場合、インドネシアで1970年代に開始された大学生の農村貢献実習(Kuliah Kerja Nyata, KKN)の実績に依拠したプログラムであることを特色としています。もう一つの大きな特色は、6つの大学の学生が四国の農山漁村で夏に約2週間、インドネシアの農山漁村で春に約2週間、共に滞在し、日本とインドネシアという異なる視点から地域に向き合い、実践活動に取り組みながら共に学ぶ双方向型のサービスラーニング・プログラム(SLP)だということです。

 以下は、カパル第3回研究大会シンポジウムにおける報告の補足説明として、2016年3月発行の「調査研究情報誌ECPR」に掲載された記事「日本とインドネシアの農山漁村で展開するサービスラーニング・プログラムの試み:異文化交流を通じた地域未来づくり」(島上宗子・小林修による共著)を一部修正する形で整理したものです。記事の一部修正と転載を承諾いただいた公益財団法人えひめ地域政策研究センターと共著者には記して感謝申し上げます。なお、2016年以降のプログラムの状況についてはシンポジウムでお話しします。

_______________________________________

 日・イ6大学連携(SUIJI)とSUIJI-SLPの枠組み

 愛媛大学では、香川大学、高知大学とインドネシア3 大学(ガジャマダ大学、ボゴール農業大学、ハサヌディン大学)と連携し、文部科学省の「大学の世界展開力強化事業」の採択をうけ、2013年度から、SUIJIサービスラーニング・プログラム(SUIJI は Six-University Initiative Japan Indonesiaの略。以下、SUIJI-SLP) を本格始動させた。SUIJI-SLPは、日本とインドネシアの 6大学の学生が、四国とインドネシアの農山漁村にそれぞれ約2週間、共に滞在し、農山漁村が直面する課題解決に貢献する活動に取り組みながら学ぶプログラムである。グローバル人材の育成を、農山漁村というローカルな現場で、まさに土にまみれながら追及している点に、SUIJI-SLPの特色がある。

 SUIJI-SLPには、異文化交流を促しながら実践的に学びあう、いくつかの仕掛けがある。すなわち、1) 農山漁村というローカルな現場で、日本とインドネシアの学生が学びあう、2) 学生は原則として、日本とインドネシアの両方のサービスラーニングに参加する、3) 地域の課題解決を目指した活動を計画し、実践する中で学ぶ、4) 全学部の学生が履修可能で、学部の異なる学生が共に学びあう、5) 専門教育ではなく、主に1~2年の初年次共通教育として位置づけられる、6) ベーシックとアドバンスドのレベルを設け、希望する学生は再度同じ実習サイトで実践できる、7) 実習サイトはなるべく変更せず、学生が毎年通うことで活動を深める、である。

国内・海外サービスラーニング(SL)実習地(2016年現在) 

 国内サービスラーニングでは、これまで毎年、日・イ 6大学から計100名あまり(うち約40名がインドネシア学生)が四国の8ヶ所の実習サイトに分かれて活動し、海外サービスラーニングには、毎年計120名(うち約50名あまりが日本学生)がインドネシアの農山漁村5サイトにわかれて活動している。

 以上のような枠組みの下で進められてきたSUIJI- SLPは、学生にいかなる学びを与え、地域に何をもたらしているのか。重要と思われるいくつかの側面を、学生の成果物などから拾い出しながら、みていこう。

学生の参加動機

 「私は人文学科に所属しており、一次産業はこれまで関心を持ったことのない分野でした。また、(中略)インドネシアに行くということは考えたことさえありませんでした。しかし、だからこそ参加したいと思いました。居心地のよい、自分の得意な分野だけにとどまらずに、関心分野がまったく違う人や、宗教の異なる人、人種や母語の違う人と交われるとてもよい機会だと思ったからです。」(法文学部1年、Aさん)

 「(受講動機の)1つ目は、僕が島根県出身だということです。島根県には原発があります。また高齢者の割合が3割を超す顕著な高齢化社会です。そのような数々の問題を抱えるところで生まれ育った僕は、いずれ島根県に戻り、地域課題の解決に貢献できたらなと思っています。そのために様々な問題や課題を抱える地域に出向き、実際に見て、感じて、仲間や先生方と共に解決を目指していくことでこれからの自分の目標をかなえるためのヒントをもらえるような気がしています。」(農学部1年、Tくん)

 以上は、履修希望の学生が提出している受講動機レポートからの抜粋である。受講動機には、Aさんのように、「海外に行ってみたい」「自分の視野や可能性を拡げたい」「異文化を体験し、コミュニケーション能力をつけたい」「国際協力に携わってみたい」といった海外志向、Tくんのように、「地元に貢献したい」「そのための力をつけたい」といったローカルな志向が共存している。学部も志向も異なる学生たちが、四国とインドネシアの農山漁村で、インドネシアの学生と共に学びあう。彼らは何を経験し、学び、地域に何をもたらしていくのだろうか。

四国での出会いと体験:国内サービスラーニング

 国内サービスラーニングの各実習サイトでは、日・イの学生計15~20名と引率教員1名が10日あまり滞在し、寝食を共にする。宿泊場所は多くの場合、地区の公民館や集会所である。寝袋を持ち込み、基本的に自炊しながらの共同生活である。

 学生間の共通言語は英語だ。日本人学生はインドネシア学生の「耳」「口」となり、地域の方々との間を通訳する役割も担う。活動は自分たちの発見や気づきをもとに、学生たちが地域の方々に相談しながら組み立てていく。言いたいことが英語で表現できないもどかしさを痛感しながら、学生たちは連日深夜まで議論を重ね、活動を計画し、取り組んだ活動の意味を振り返る。

地域を歩き、お話を聞く(明浜地区にて)。日本学生は通訳の役割も果たす

 インドネシアの学生にとって、高齢者が一人で暮らし、若い世代にほとんど出会えない日本の村の状況は「驚き」である。なぜ、若者は村を離れるのか、高齢者は一人で大丈夫なのか、このままいくと村はどうなるのか。インドネシア学生の素朴な問いは、日本の学生たちにとって、日本の社会が歩んできた道を見直し、自分の立ち位置を改めて考える機会となる。中でも、地域で自分たちは何ができるのか、余所者としての立ち位置をめぐっては、日本・インドネシアの学生間で真剣な議論が続く。

 「高齢化、人口減少、少子化、空き家の増加など、問題を解決したいという想いから、自分たちのアイディアを出し合いました。でも、はたと気づきました。私たちにはそれらのアイディアに対して責任がありません。私たちは地域外に住む学生ですし、実際に動くのは地域の人になってしまいます。」(法文学部2年、Aさん) 学生たちが悩み、議論し、実施できた活動は、荒地や排水路整備のお手伝い、インドネシア文化交流会、1日コミュニティ・カフェの開設、ガードレール磨きなど、ささやかなものだ。それでも、学生たちが真摯に取り組んだ活動が地域の人々の目に触れることで、差し入れをいただいたり、泊めていただいたり、地域の人々との間に予想していなかった交流が生まれ、「またおいで」といわれる関わりが育まれていく。そうした関わりが、後述する学生の自主的活動へとつながっている。

1日コミュニティ・カフェでの多文化交流(蒋渕地区にて)

 受入側の地域にとっても、学生の受入はまさに異文化交流である。当初、「学生さんたちが来てくれても何もできませんから」と受入に消極的だった地域や、イスラム教徒が多いインドネシア学生の受入に不安を示される地域もあった。しかし、受入後は、「(学生受入に)地域も対応できる」との感覚をもたれたり、「学生さんたちから多くの元気、勇気をもらっている」「地域を見直し、誇りをもった」「ぜひまた来てほしい」などの高評価を何人かの方々からいただいた。国内サービスラーニングは、地元にいながらにして、「インドネシア」だけでなく「若者」という「異文化」もやってくることで、地域を見直し、地域の力を引き出す機会となっている。

 (後編へつづく)