約150名の参加者とともに迎えたカパル設立記念大会が、無事に終わった。インドネシアに関係している、または興味を持っている方々が一堂に会する機会ということで、開会前から会場内は真冬の京都とは思えない熱気に満ちていた。

一日参加して最も印象に残ったのは、世代や国籍を超えた交流が、様々な場で起こっていた点だ。まず、世代間交流だが、設立大会記念講演「3世代が語る<わたしのインドネシアとインドネシア研究>」によって、参加者全員がそれぞれの世代の経験に思いをはせることができた。私自身も3世代の発表者の話を聞きながら、自分の経験を省みる時間になった。3人の発表者のご経験は、それぞれ豊かな内容であったが、なかでも強く心に響いたのは、押川先生の「プラムディヤの小説言語に私の日本語がどれだけ拮抗しうるかという緊張感」とう言葉であった。翻訳作業を通して、プラムディヤの文学に向き合う中で、自らを厳しく見つめなおしていかれた押川先生の姿勢に、思わず背筋が伸びた。

文学を通してプラムディヤを、そしてインドネシアを考えていくという押川先生のお話があったこともあり、今回の会では、これまでご著作を通してしか存じ上げなかった方々と直接お話をする機会を得られたことが、いっそう深い喜びとして感じられた。常々、「研究者は論文で勝負」、「書いたものはすでに著者の手をはなれている」、と言われながら生活している訳だが、たとえ短時間であっても、著者の皆さんの雰囲気や背の高さ、声のトーンや話し方などを知る機会に恵まれたことによって、ご著作の内容が改めて活き活きと思い出されたのは、とても幸せな経験であった。

国籍を超えた交流という点については、セッションに参加して下さった海外からの研究者や留学生、そして様々なインドネシア料理を準備して下さった在日インドネシア留学生協会(PPI)の活躍が印象的だった。そして今回は、設立記念大会であったこともあり、東京のインドネシア大使館からアバス・リドワン公使がご挨拶にきてくださった。

ただし、国籍を超えた交流をすすめていくためには、発表言語の多様化を検討していく必要があるだろう。朝から二次会まで参加して下さったインドネシア人の方から、英語のミニパネル以外は、発表にあらわれるわずかなインドネシア語を頼りに、発表内容を推測しつづける一日であったとうかがった。日本語話者以外の参加者にこのような苦行を強いることなく、つたない英語やインドネシア語であっても、私たちの研究成果を共有できる装置があればと感じながら、一日を終えた。

今後も、垣根を超えた同窓会のような雰囲気を保ちながら、カパルの航路が長く続くことを願っている。

北村由美 (京都大学)