インドネシアの研究者がこんなにたくさんいるのか、というのが設立記念大会での印象である。大会議室での開会式から多くの参加者が結集し、午後の記念講演会になるとさらに人数が増え、空席を探すのが難しいほどであった。インドネシアからの留学生や研究者の姿も交え、研究発表の各会場も立ち見が出るほどの盛況ぶりで、インドネシア研究の層の厚さを感じる1日となった。
研究大会のプログラムも多彩であり、4会場でミニ・パネルを含む計12ものセッションが開かれた。興味のある報告が重なり、どこに行くか悩んだ参加者も多かったのではないだろうか。筆者自身は専門である歴史研究の発表が少なく、当初は残念に思っていたのだが、自然環境や災害、方法論、商品経済などの報告に参加した。それぞれテーマは異なるといえど、普段は縁遠い分野に触れることで、過去と現在の連続性や、「インドネシア」という共通の素材を新たな視点で捉え直す機会となった。関心の立て方や史料の活用方法などの面でも新鮮な驚きがあり、同時に歴史研究から貢献できることはまだまだたくさんあり、他の分野に向けて発信をすることの必要性を痛感した。
また、参加者がインドネシアに対する一定の理解を備えていることで、報告内容へのイメージをつかみやすく、より具体的な議論や、思わぬ情報が報告者にもたらされる場面もみられた。同じフィールドを共有しているという親近感や連帯感からであろうか、全体として和やかな研究会だったように思う。このことは、「Indonesian Tribeにはならない」という本会の趣旨とは紙一重の危険性もはらんでいるのだが。
ただ、われわれ研究者一人一人も一隻の「カパル」である。今回の設立記念大会は、自らの研究テーマを載せた船が、出航前の港で集う門出の場であり、各会場の熱気とインドネシア人留学生らによるナシ・クニンも相まって、色とりどりの紙テープが投げられた出航式の祝賀のようでもあった。ここから新たな航海に向かい、荒波にもまれて再び母港に戻り、その成果を交換し合う、カパルがそんな場になることを願っている。
工藤裕子 (東洋文庫)