カパル設立大会は大成功だったと思う。150人を超える参加者を集め人数的に盛況だったこともあるが、その内容が良かった。20代の学生から80代の長老格まで各年代が揃った。そして、専門の異なる研究者が集まった。人文・社会系の諸分野はむろん、農学や医学に関わる理系の専門家による発表もあり、両者相混じって大会を盛り上げたさまは、日本の東南アジア研究が積み上げてきた良き伝統を反映していた。全ての参加者を結びつけていたのはひとえに「インドネシアに関心を持つ」という一点だった。
つまり、カパルは第一義的には地域研究者の集まりだと言える。その点で、全体会場にも分科会場にもある種の安心感と緊張感の入り混じった空気が充満していた。インドネシア研究ならではの固有名詞や専門的知識を皆が相当程度共有しているというのは、報告者・討論に加わる参加者の双方にとって、心地よいことでもあり、厳しいことでもある。
だが、冒頭の趣旨説明での世話人代表・加藤さんの言葉通り、カパルの成員が視野の狭い「インドネシア部族」に陥ってはなるまい。これには、「インドネシアだけを見ていてはいけない」、「他の東南アジア諸国や日本を含む世界各地との連関を常に考え、他地域の研究者にもオープンでなければ」という意味合いもあるだろう。だが、それだけではない。
各々の拠って立つディシプリン(専門分野、方法論)ならではの立場からインドネシアの諸側面に切り込んでみせること。また逆に、インドネシアという地域、それも各自がつかまえた事例ならではの知見から、自分の専門分野に対して新たな問いを投げかけ、方法論をも磨くことができれば理想的だ。個々のディシプリンがしっかりしていればこそ、他地域や他分野の参加者との間に、有益な化学反応が起きることが期待できるだろう。
今回、私が参加した4つのパネルでは、ほとんどの報告者にその自覚がみられた。その点がやや不明な報告に対しては、「結局、インドネシアのユニークネスは何なのか」「あなたの専門分野に対してはどのような意義をもつのか」という質問がフロアから飛んだ。この調子ならカパルの前途は洋々だなと感じた。
なお、大会運営も全体としてみごとだった。短い期間のうちにカパルそのものの立ち上げと大会準備を進められた方々のご苦労が察せられる。当日の設営や受付、各会場での進行補佐、懇親会の手料理から最後の後片づけまで献身的に当たられたインドネシア留学生協会の皆さんや日本人学生・若手研究者の皆さんへも敬意と謝意を:Terima kasih!
貞好康志 (神戸大学)