オンライン開催されたKapal第二回研究大会では、計12セッションが設けられていた。開催両日の午前中及び、二日目の最終パートではそれぞれ三つの会場が設けられ同時並行的に運営された。今回、私は自身の研究テーマと深く関係する二日目の「海の世界の生業と知識の所在」に参加した。自身は、東南アジアに居住する海民サマ(バジョ/バジャウという他称でも知られる集団)とスラウェシ周辺の民族関係に着目した研究を行っている。
このセッションでは、海の生業と知識というタイトルに相応しく、インドネシア海域における人びとの生業とそれにまつわる知識に関する三つの発表が行われた。明星つきこ(金沢大学)は、南スラウェシ州タナベルにおける木造船の造船所に着目し、伝統的な木造帆船の造船手順のみならず、観光船の受注・造船量が著しく増加しているという近年の受注動向を踏まえた報告を行った。間瀬朋子(南山大学)は、ロテ島周辺の漁村において見られる漁撈活動の変容をオーストラリア領海との境界での規制強化の流れと関連付けて考察した。間瀬は、個々の船員の経済的な背景(個人所有の船か、雇われの乗組員かによって船舶没収によって受ける経済的な損失が異なるという側面)だけでなく、経験知としてたとえ拿捕されたとしても非人道的な扱いを受けないと知っていることもまた、彼らの違法行為への関与を助長している可能性を指摘した。中野真備(京都大学)による中スラウェシのバンガイ諸島に居住するサマの漁撈活動に纏わる環境認識に着目した発表を行った。ここでは、航海技術に見られる自然環境への命名から空間・環境認識を探るという視点での分析が試みられた。
以上がKapal第二回研究大会セッションB2にて行われた研究発表の概要である。それぞれが各地域の海に関わる生業とそれにかかわる知識・技術に着目しつつ、近年における変容が描写されその動態と併せた分析が行われることにより、同時代史的な視点を反映させた考察が示された。質疑応答において、カリマンタンにおける造船所に移民が多いことや、今後同地域において扱われる商品が輸出禁止になる可能性があること、それにまつわる価格変動を注視する必要性、サマ語による語彙分類の例など専門的で詳細なコメント及び質問が寄せられた。さらにチャット欄でも双方向的なやり取りが発生し、報告者が返答しきれなかった質問やコメントに対して、聴衆より返答が寄せられるなど、議論の活発さが見られ、参加者にとっても大変有意義な情報の行き交う空間が生成されていた。このような活発な質疑応答、精到な議論が行われたことは、インドネシア研究懇話会ならではの現象であったように思う。さらに、チャット上のやり取りの中では、研究報告にも登場しない地名が多数見られ、海のネットワークの広大さを改めて実感させられた。報告者・参加者それぞれの研究地域が次々と結びついていくようなやり取りは、さながら海のコミュニティ形成動態を想起させるようであり、非常に印象的であった。
今回は自身の時間の都合上、二日目のみの参加となったが、次回はぜひ大会両日とも参加したい。オンライン開催という初めての試みに関しても、その利点欠点が感じられた。例えば、応えきれなかった質疑応答に関して、「のちほど」と指示されても結局オンライン上にそうした議論を継続させる余白が存在しなかったことが挙げられる。同様に、通常であれば休憩時間や会場移動の合間に挨拶をかわし、連絡先等の交換を行う場が偶発的に発生するが、オンライン上でそのような交流が偶発的に生み出されることは少ない。もし今後オンライン開催を継続するならば、非公式な交流が発生する余地のある時間・空間を運営側で意図的に設定していただければと思う。
オンライン開催の利点としては、より多様な参加者を集めることが期待できる点、その経済的、身体的、地理的な格差による困難を軽減できるという点が主に挙げられる。そのため、個人的には今後もぜひオンライン配信を並行して行っていただきたい。そして、研究大会やKapalという組織が、より広範な研究者ネットワークの結び目となっていくような展開を期待する。
最後に、研究大会の開催を支えた委員会の皆様、支援に関わった皆様、発表者・参加者を含め、大変貴重な交流・議論の場を創り出してくれた皆様に感謝の意を表したい。ありがとうございました。Terima kasih!
加藤久美子(上智大学大学院グローバル・スタディーズ研究科・院生)
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