前回大会から2年近くを経て、カパル[再編]第二回研究大会が昨年11月に開催された。当初予定の研究大会が2度の延期を経てオンライン開催に至るという変則的な経緯をへた上での開催だったものの、発表の多くは滞りなく行われ、各セッションでの議論も活発に行われたという印象をもった。
 
 対面で人と集まることが難しくなって早や一年近くが経ち、わたし自身、社会学や文化人類学の分野で開催されるオンラインの学会・研究会に参加することにもすっかり慣れてしまっていた時分だった。カパルに久しぶりに戻ってきて、まず率直に、「インドネシア」という括りで集まる人々の学問的背景・専門性の多様さを改めて実感した。また、そのことに、単にインドネシアに関心や愛着をもつ人々が集うという以上の意義があることを再確認するよい機会となった。そうした意義のひとつには、地域で括るからこそ、共通する問題関心や類似の社会事象を様々な専門分野の視点から多角的に、かつ深く議論できるということがあるだろう。今回開催された2つのシンポジウムは、このことをよく示していた。
 
 1日目に開かれたシンポジウム、「アブラヤシはインドネシアに何を提起したか?──日本の研究者・NGOの立場から考える」は、カリマンタンとスマトラを中心としたアブラヤシ農園の拡大がもたらす、豊かさと「偏り」に関するものだった。食品や洗剤、化粧品の原料となるパーム油の国際的需要の高まりを背景として、アブラヤシはここ30年ほどでインドネシアやマレーシアの一大産業となった。アブラヤシという商品作物が地域の現金収入を増大させた反面、地域経済のアブラヤシへの過度な依存は潜在的な社会経済リスクとなっている。さらには、泥炭湿地林を大規模なアブラヤシ農園へと転用することは世界的規模の温室効果ガス排出のリスクも高めている。本シンポジウムは、パーム油産業をマクロな環境・経済問題として把握した上で、精緻な実地データに基づく知見から、地域の持続的発展可能性を模索することをテーマとしていた。発表の内容は、泥炭燃焼時の温室効果ガス発生量に関するものから、地域住民のごく小規模な生活実践にみられる用地の多元性に関するものまで、多岐に渡ったが、詳細で具体的なデータに基づいて展開される議論は、マクロなレベルで生起する困難な課題を解決へと導く堅実な道筋を示すものに見えた。
 
 2日目のシンポジウム、「新型コロナウイルスとインドネシア」もこの点は同様だった。統計・医療・政治・経済などの側面から、現在に至る感染状況とその要因・帰結に関して多岐に渡る論点が出され、活発な議論が行われた。発表後も、チャット機能を介した全体の質疑応答を通して、論点はさらに広がりをみせた。国ごとに異なる感染状況が今後の経済に与える影響/コロナ禍のもとでの政府・軍・警察の動向や思惑と、これからの市民社会運動と民主主義のゆくえ/WHOの地域区分とアセアンのずれからくる連携・情報交換の齟齬/出稼ぎ労働者の移民先での状況や帰還状況と、彼らの動向が感染状況に与える影響など。これほど論点が多方向に拡散しながら、全体としてまとまりをもったかたちで議論が進展し、リアルタイムで情報交換すら行われていたことは、チャットでの文字を介したコミュニケーションの利点だったのかもしれない。
 
 その中でも、インドネシアの致死率が周辺他国と比べて高い要因に話が及んだ際の、中村安秀氏の受け答えは印象的だった。中村氏は、インドネシアの医療施設の慣行だけではなく、医療施設・高齢者施設と集団感染リスクの一般的な相関や、無症状感染者の数・動向など、考えられる要素を具体的に説明する中で、それでも、地域ごとの感染状況に差異を生む要因は、感染が最終的に収束してから、事後的にしか判断できないことを強調された。また、インドネシアに限らず、途中経過をみて感染状況が低いからといって、「なぜこの地域は少ないのか」などと拙速に議論しはじめれば、見当違いな仮説が実際の感染状況に悪影響を及ぼすリスクもあることを重ねて強調された。
 
 これまでカパル以外で実施されたオンラインでの学際的なシンポジウムや研究会にいくつか参加する中で、分野や視点の多様性に比して議論の深まりに欠ける、各分野間で基礎的な背景知識が共有されていないために、せっかく時間をとって行われたディスカッションの結論がぼんやりしたところに落ち着いてしまう、などと感じることが少なくなかった。だが、本大会のいずれのシンポジウムとも、そうした問題を感じさせないものだった。改めて考えてみると、はじめからインドネシアという地域に焦点が絞られていることからくる利点もあるだろうが、それ以上に、特定の地域や社会問題、事象を巡って日頃から学際的交流を行うネットワークがあることの重要性に思いをいたした。これはインドネシア研究者、ひいては東南アジア地域研究者にとっては当たり前のことかも知れない。とはいえ、そうした日々の活動の延長にある結節点としての、インドネシアという括りで人が集うカパルという場の重要性を、改めて実感させられた大会だった。
 
 また、今大会では、初の試みとして、若手研究者が5分間で自身の研究を紹介する「弾丸プレゼン/Lightning Talk」も開催された。主催者・発表者ともに慣れない試みだったかと拝察するが、いずれの発表も、それを思わせない完成度だった。5分間という制限の中で首尾良く論旨をまとめ、研究の目的・意義を簡潔に伝えるものだった。
 
 その後に行われたオンラインでの懇親会も、わたし個人としては初めての経験だったが、運営委員の方々のご配慮のおかげもあって、非常に実りあるものになったと感じた。特に、「弾丸プレゼン」発表者を囲んでの質疑応答から始まるという形式をとったことで、わずか5分という発表時間の割に大変な労力をかけて準備したであろう若手研究者にとって、大会への参加がさらに有意義なものとなったのではないだろうか。懇親会での質疑応答と討論の盛り上がりが、そのことをよく示していた。
 
 わたし自身にとっても、調査にも出られず、研究の先行きも見えにくい状況が続く中で、こうして研究を発表する場を与えていただけたことは、とてもありがたいことだった。不測の事態にあっても力強く舵を切り、若手が研究活動を進めていける場を守ってくださった運営委員の方々に、改めて深く感謝を申し上げたい。

中村昇平(日本学術振興会・金沢大学・特別研究員)